金色《きんいろ》をした磚《かわら》を鋪《し》いてすこしの塵もなかった。老嫗は青年を伴れて遊廊《かいろう》を通って往った。遊廊の欄干も皆宝石であった。真珠の簾を垂れた窓からは薫物《たきもの》や香油の匂いがむせるようにもれてきた。その遊廊には錦繍《にしき》の衣《きもの》を着て瓊瑶《たま》の帯をした絵で見る仙女のような若い女が往来《ゆきき》していて、それが二人と擦れ違うことがあった。その若い女達は青年をじろじろと見て往った。皆笑いをかくしているようであった。中には老嫗と眼くばせするように優しい眼づかいをする者もあった。青年はここはどうしても人間界ではないと思いだした。青年は不安になってきた。
「ここは、ここは、どこでしょうか」
 老嫗は青年の詞を押えつけるように言った。
「ここへ来たからには、もう何も言わないが良い、ここは人間のくる処ではありません」
 人間のくる処でないというなら仙界であろう。青年の心は震えた。そこには若い女が集まっていた。老嫗はその女達の方に向って言った。
「旦那様がいらしたのに、仙妃は何故お早くお出ましにならないでしょう」
 心の震えている青年の耳には、それが何のことか
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