上であった。
 車は平坦な甃石路《いししきみち》を走りだした。石を甃《し》いた平坦な路は郊外にはあまりないので、城内だろうかと思ったが何しろ扉が締っているので解らなかった。しかし、青年はそんなことにはあまり気をおかなかった。売卜の詞によって縋っている者がその縋っている者を悪いようにはしないという心頼みがあるからであった。
 車の足が遅くなって曲り曲りしたかと思うとぴったり停まった。
「やっとまいりました」
 老嫗の初めの詞と違ったきびきびした詞が聞えた。老嫗は起って昇降口の扉を開けてまず自個《じぶん》で降りた。
「さあ、どうか」
 青年はどんな家だろうと思って老嫗の後からおりた。そこに花や鳥を彫刻した柱を丹《あか》や碧《あお》に塗った建物が並んでいて、その窓々《まどまど》には真珠の簾《すだれ》が垂れてあった。
「さあ、いらしてください」
 青年はあっけに取られていたが、老嫗の詞を聞いて吾に返った。
「ここはどこですか」
「いらしてくだされたら、すぐお解りになります」
「そうですか」
「では、いらしてください、まいりましょう」
 青年は老嫗に魂を掴まれたように老嫗に随いて歩いた。下には黄
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