は寝室らしかつた。
「さあ、ちよつと此所へかけてくださいよ、」
年増の女が入口に近い椅子に指をさすので譲は急いで腰をかけた。
「なんですか、」
年増の女はその前に近く立つたなりで笑つた。
「そんなに邪見になさるもんぢやありませんよ、」
「なんですか、」
「まあ、そんなにおつしやるもんぢやありませんよ、あなたは、家の奥さんの心がお判りになつたんでせう、」
「なんですか、僕にはどうも判らないですが、」
「そんな邪見なことをおつしやらずに、奥さんは、お一人で淋しがつてゐらつしやいますから、今晩、お伽をしてやつてくださいましよ、かうしてお金が唸るほどある方ですから、あなたの御都合で、どんなことでも出来るんですよ、」
「駄目ですよ、僕はすこし都合があるんですから、」
「洋行でもなんでも、あなたの好きなことが出来るんぢやありませんか、私の云ふことを聞いてくださいよ、」
「それは駄目ですよ、」
「あんたは慾を知らない方ね、」
「どうしても、僕はそんなことは出来ないんです、」
「御容色だつて、あんな綺麗な方は滅多にありやしませんよ、好いぢやありませんか、私の云ふことを聞いてくださいよ、」
「そいつ
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