のスヰッチを[#「スヰッチを」は底本では「ス井ッチを」]ひねつてゐるやうであつた。
「すこし、此方は、暗いんですよ、」
 女の声には霧がかかつたやうになつた。
「さうですね、」
 女はもう何も云はなかつた。

          三

「此所ですよ、」
 蒸し蒸しするやうな物の底に押し込められてゐるやうな気持になつてゐた譲は女の声に気がついて足を止めた。其所にはインキの滲んだやうな門燈の点いてゐる昔風な屋敷門があつた。
「此所ですか、では、失礼します、」
 譲は下宿の女が気になつて来た。彼は急いで女と別れやうとした。
「失礼ですが、内まで、もうすこしお願ひ致したうございますが、」
 女の顔は笑つてゐた。
「さうですか、好いですとも、行きませう、」
 左側に耳門があつた。女はその方へ歩いて行つて門の扉に手をやると扉は音もなしに開いた。女はさうして扉を開けかけてから振り返つて、男の来るのを待つやうにした。
 譲は這入つて行つた。女は扉を支へるやうにして身を片寄せた。譲は女の体と擦れ合ふやうにして内へ這入つた、と女は後から従いて来た。扉は女の後でまた音もなく締つた。
「失礼しました、」
 薄
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