もんですから、」
 譲はかう云つてからふと電燈の笠のことを思ひ出して、あんなことがあつたらこの女はどうするだらうと思つた。
「本当にお淋しうございますのね、」
「さうですよ、僕達もなんだか厭ですから、あなた方は、なほさらさうでせう、」
「ええ、さうですよ、本当に一人でどうしやうかと思つてゐたんですよ、非常に止められましたけれど、病人で取込んでゐる家ですから、それに、泊るなら親類へ行つて泊らうと思ひまして、無理に出て来たんですが、そのあたりは、まだ沢山起きてた家がありましたが、此所へ来ると、急に世界が変つたやうになりました、」
 傾斜のある狭い暗い路が尽きてそれほど広くはないが門燈の多い町が左右に延びてゐた。譲はそれを左に折れながらちよつと女の方を振り返つた。綺麗に化粧をした細面の顔があつた。
「こつちですよ、いくらか明るいぢやありませんか、」
「お蔭様で、助かりました、」
「もう、これから先は、そんなに暗くはありませんよ、」
「はあ、これから先は、私もよく存じてをります、」
「さうですか、路はよくありませんが、明るいことは明るいですね、」
「あなたはこれから、どちらへお帰りなさいます、
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