《かどぐち》が見えて、出口に一本の欅《けやき》があり、その欅の後《うしろ》になった板塀の内の柱に門燈が光っていたが、それは針金の網に包んだ円《まる》い笠に被《おお》われたもので、その柱に添うて女竹《めたけ》のような竹が二三本立ち、小さなその葉がじっと立っていた。ふと見るとその電燈の笠の内側に黒い斑点《はんてん》が見えた。それは壁虎《やもり》であった。壁虎は餌《え》を見つけたのか首を出したがその首が五寸ぐらいも延びて見えた。彼はおやと思って足を止めた。電燈の笠が地球儀の舞うようにくるくると舞いだした。彼は厭《いや》なものを見たと思って路《みち》の悪いことも忘れて小走りに左の方へ曲って往った。
※[#ローマ数字「II」、1−13−22]
讓は奇怪な思いに悩まされながら歩いていたがそのうちに頭に余裕が出来て来て、今の世の中にそんなばかげたことのあるはずがない、神経のぐあいであんなに見えたものだろうと思いだした。しかし、それが神経のぐあいだとすると、己《じぶん》は今晩どうかしているかも判らない。もしかすると発狂の前兆ではあるまいかと思いだした。そう思うと憂鬱《ゆううつ》な気も
前へ
次へ
全39ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング