ういってしまった。羅は翩翩から責められるのを懼れていたが、翩翩は平生とかわらない話をして他に何もいわなかった。
 間もなく秋も末になって風が寒くなり、霜がおりて木の棄が落ちてしまった。翩翩はそこで落葉を拾いあつめて寒さを禦《ふせ》ぐ用意をしたが、羅が寒そうに体をすくめているのを見ると、※[#「巾+僕のつくり」、第3水準1−84−12]《ずきん》を持って洞穴の口を飛んでいる白雲をとり、それで綿入れをこしらえてやった。羅がそれを着てみると襦《はだぎ》のように温いうえに、軽くふんわりとしていていつも新らしく綿を入れたようであった。
 翌年になって翩翩は男の児を生んだ。それは慧《りこう》できれいな子供であった。羅は毎日洞穴の中でその子供を弄《いじ》って楽しみとしていたが、その一方ではいつも故郷のことを思っていた。羅はそこで翩翩と一緒に返りたいといいだした。翩翩はいった。
「私は一緒にいくことができないのですから、帰りたいならあなたが一人でお帰りなさい。」
 羅はしかたなしに二、三年そのままにしていた。そのうちに子供がだんだん大きくなったので、とうとう花城の家の子供と許嫁《いいなずけ》をした。羅
前へ 次へ
全10ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング