「でも、いやよ、放してよ」
「まあ、じっとしていらっしゃい、いいじゃないの」
「だめよ、わたし、こんな百姓でも、ちゃんとお嫁に往かなくちゃならないのですもの、そんなみだらなことはいやよ」
南は口実が見つかった。
「僕は、あなたを弄《もてあそ》ぶつもりじゃないのです、あなたはお父さんから聞いてるかも解らないが、僕は家内がないのです、僕はあなたに結婚してもらいたいのです」
「ほんとう」
「ほんとうですとも」
「きっと」
「きっとですとも」
「じゃ、盟《ちか》ってくれて」
「盟いますとも」
窓の外には晴れた空が覗いていた。南はそれに指をやった。
「あの、天に盟います」
少女は南の指をやった方を見た。
「きっと盟う」
「盟いますとも」
南はそう言って少女を抱きしめるようにした。
南はその日から廷章の留守に廷章の家へ往くようになった。某日《あるひ》女《むすめ》は南の耳に囁いた。
「いつまでも、こんなことをしてるのはいやよ、どうか、お父さんに話して、正式に結婚してよ」
南は賤しい農民の女と結婚するのは困ると思ったが、女の心地《きもち》を硬《こわ》ばらしては面白くないので、頷いて見せた
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