の耳環の碧い玉を見せた。南はその碧い玉に少女の心の動きを見た。
 南は悦《よろこ》んだ。南はその後でも一度少女の赧くなっている横顔を見たが口を利くまでに至らなかった。
 三月位して南はまた廷章の家へ往った。少女は何か用ありそうに二人の話している室へ入ってきた。南はもう廷章に遠慮しなくてもいいので、眼に笑いを見せて睨む真似をした。少女は両手を顔へぴたりと当てて、小鳥のように走って表入口の方へ出て往った。
「これ、お客様に御挨拶をしないのか」
 廷章は南を見て笑った。南は一時間位の後、次の室の入口に此方を正面《まとも》に見て笑いを見せている少女の顔を見た。
「いらっしゃい」
「いやよ」
 少女はそのままひらひらと隠《かく》れて往った。期待していたものが急に近づいたのであった。南は三日おき四日おきに廷章の家へ往って、ますます少女に接近した。
 某日《あるひ》、その日は酒と肴を持って廷章の家へ往ったところで、廷章は野良へ往って留守であった。南は一人で酒を飲みながら機会を待っていた。少女は傍へ来た。南はいきなりその肩に手をかけて引き寄せた。
「いやよ、放してよ」
「なぜ、そんなに僕を嫌うのです」
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