がなかった。南はとても家の近くではいけないと思ったので遠くの方を物色した。そして二三年の後にやっと曹《そう》という進士の女と結婚することになった。
 その比晋陽の付近に何人いうとなく一つの噂が伝わってきた。それは良家の女を選んで後宮へ入れるという噂であった。字《やくそく》して聘《むか》えられる日を待っている女の家では驚惶《きょうこう》して吾も吾もと女を夫の家へ送った。
 その時南の家へ二梃の輿《こし》が来た。※[#「門<昏」、第3水準1−93−52]者《もんばん》は出て往って聞いた。
「何方《どなた》様でございましょう」
 後の輿から年とった女の声がした。
「わたくしは曹からまいりました、旦那様にお取りつぎくださいまし」
 ※[#「門<昏」、第3水準1−93−52]者は曹からと聞いていそいで南の処へ往って取りついだ。南は曹から何の用事で来たろうと思って出て往った。門口には輿から降りたばかりの十五六の背のすらりとした少女と老婆が立っていた。
「これは南の旦那様でございますか、わたくしは曹からまいりましたものでございます、あなた様もお聞きになっていられるだろうと思いますが、今朝《こんど》朝
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