うした死骸でしょう」
「ありゃ、どうも、あの廷章の女の死骸だよ」
「そうですか」と言って要人は、何か考え込んだが、「悪い奴があって、奥様を殺しておいて、あんな死骸を持ち込んできたかも解らないですが、これが表沙汰になると、どんな結果《はめ》になるかも解りませんから、廷章の方へ、じかにわたりをつけようじゃありませんか」
南も表沙汰にして自分の罪悪が現れるようなことがあっては困ると思った。
「そうだ、それがいい」
要人は怪しい死体を持って廷章の家へ往った。廷章は半ば疑いながら土地の習慣に従って浅く土をかけて葬ってある女の棺を開けてみた。棺の中には嬰児の死体ばかりあって女の死体はなかった。踏みにじられてその枉屈《おうくつ》を述べることもできないで泣いていた廷章は激怒した。廷章は要人の金を出すからという妥協に耳をかさないで、府庁《やくしょ》に訴えた。府庁でもあまり奇怪なことであるから手の下しようがなかった。南は万一のことがあってはならないと思ってまた賄賂を用いたので、その事件もそのままになってしまった。
事件はそのままになってもその噂がぱっと拡がったので南が結婚しようと思っても女をくれる者
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