やかな死体が横たわっていた。南は恐ろしいので外へ逃げだした。
「旦那様、奥様が大変でございますよ」
南の傍には媼がいた。媼の頭には新人の凶変のみが映っていた。媼は南を引きずるようにして後園へ往った。
後園の桃園では女の死体をおろした岳父が狂気のようになって、婢のはこんできた薬湯を口や鼻から注ぎ込んでいた。
「魂《たま》よせじゃ、魂よせじゃ」
岳父は薬湯の器をほうりだして叫んだ。岳父は女の蘇生しないのはもうその魂が野に迷いでたがためであると思った。婢は近くの巫女《みこ》の家へやられた。巫女は婢といっしょに来て新人の死体の傍へ草薦《こも》をしいて祈った。怪しい猿か何かの叫ぶような巫女の声が暫く続いたが、魂は還ってこないのか新人は蘇生しなかった。岳父は泣きながら女の死体を引き取って帰って往った。
混惑の裡にあやつり人形のようになっていた南は、要人に注意せられて心をひきしめなくてはならなかった。要人は父親の代からいる老人であった。要人は怪しい死体の始末に困っていた。
「旦那、あのへんな死骸ですが、どうしたものでしょう」
「そうだな」
南にもどうしていいか解らなかった。
「ぜんたい、ど
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