廷で女を選んで後宮に入れるということでございますから、もしそんなことにでもなると、困りますから、式はまだあげませんから、急にお嬢様をお伴れ申しました」
南も嬪御《ひんぎょ》の噂を聞いて心配しているところであった。
「それは、どうも、遠い処を大変でした」と言ったが、いくら倉卒《そうそつ》の際でも女を送ってくるには五人や十人の従者は来ているだろう、それは何処にいるだろうと思った。「そして、他の方は」
「後からまいります、それにこんな場合でございますから、充分には調いませんでしたが、それでもすこし奩妝《おこしらえ》を持ってまいりました」
ぐずぐずしていて邪魔が入ってはならないと、輿を急がしてきたので従者も奩妝も後になったものであろう、南は老婆の心地に対して何か報いなければならないと思った。
「そうでしたか、それは大変でした、さあどうか」
南は早く女を室の中に入れたかった。女は恥かしそうに俯向いていた。
「それでは、お嬢様をお願い申します、わたくしは、これから帰って、無事にお嬢様をお送り申したということを申しあげないと、旦那様と奥様が、御心配なされておりますから」と言って、女の方に向いて
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