早く結婚する必要があるので、媒婆をせきたてて日を選まし、その日になると習慣に従って新人《しんふじん》を迎えに往った。
晋陽屈指の大家を親に持った、新人の奩妝《よめいりどうぐ》は豊盛《とよさか》であった。南はその夜赤い蝋燭《ろうそく》のとろとろ燃える室で新人とさし向った。新人は白い娟好な顔をしていたが、双方の眼に涙があった。
「どうしたの、淋しいの」
南は抱いて頬ずりしてやりたいように思った。
新人の顔はますます悲しそうになって涙が後から後から湧いた。
「お母さんが、こいしいの」
南は新人の気を換えようとした。新人はとうとう顔に手を当てた。
「どうしたの」
南はその肩に手をかけた。
「どうもしないのですの」
新人は微《かす》かに言った。南は煩《うるさ》くその理由《わけ》を聞くこともできなかった。
南はその夜、凍《こおり》のように冷たい新人と枕席《まくら》を共にした。南は望んでいた情調を味わうことができなかった。
三四日してのことであった。南は閨房《おくのま》で新人とさし向っていた。新人はやはり悲しそうな顔をしていたが、それでも何処かに艶めかしいところのあるのが眼に注いた。
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