申したとおり、南さんは百姓のわなにかかったものでございますよ、いつか別荘の帰りに雨に逢って、雨宿りに往って酒を出されたものですから、感心な百姓だと思って、ものを持っててやったりなんかしたものですから、先方はものにしようとして、あんなことになったのですって」
「そうかね」
主人はふと、怪しい夢のことを思いだした。
「確かに、南さんが手を出したものじゃないかね」
媒婆は笑った。
「そんなことがあってたまるものですか、あんな世家の旦那が、何の好奇《ものずき》に土百姓の汚い女なんかに、手を出すものですか、金は唸るほどあるし、女が欲しけりゃ、いくらでも娟好《きれい》な女が手に入るじゃありませんか、こんなことになったのも、あんな土百姓にでも、ちょっとした恩になると、それをそのままにしていられないという、立派な人柄からきたものでございますよ」
主人はその人柄より南の家の金に心が往っていた。金があれば面倒を見てやらなくてもいい、それに女も幸福である。
「では、定めようか」
話は纏まったが、南は※[#「占のあたま/(冂<メ)/禽のあし」、229−10]《ゆいのう》を贈って字《やくそく》したが、
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