いらあたりの若い奴と、いたずらしたのを、僕が時おり往ったものだから、僕になすりつけて、ものにしようとしたものだよ、いくらなんだってあんな土百姓の女なんかに、手出しなんかするものかね」
「そうでございますとも、先方の旦那が、厭な噂があるが、ほんとかと仰しゃるものですから、わたしもそう言ったのですよ、なんぼなんだって、世家の旦那が、あんな汚い土百姓の女なんかに、手出しなんかするものですかって、ほんとに災難でございましたね」
「とんだ災難さ、いつか別荘へ往ってて、帰りに雨に逢ったものだから、雨をやまそうと思って往ってみると、酒なんか出すものだから、感心な百姓だと思って、別荘の往復に、時どき寄って、ものをくれてやったりなんかしたが、先方は初めから女を媒鳥《おとり》にして、ものにするつもりでかかってたものだよ、酷い目に逢ったよ」
「そうでございますよ、これというのも、奥様を早くお定めにならないからでございますよ」
「そうかも知れないね」
「そうでございますよ、だから、わたしも早く、あれを纏めようとしてるのですよ、旦那の方には、確かに異存はございますまい」
 南は早く結婚して悪評を消したかった。

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