攫《さら》って煙に乗って空にのぼろうとした。その着物と履物に注意すると、どうも嬌娜に似ているので、孔生は躍りあがって斬りつけた。怪物の掴んでいた者は下に落ちた。それと同時に山の崩れるような雷の音がして、孔生は仆れてとうとう死んでしまった。
 間もなく空が霽《は》れた。嬌娜はしぜんと生きかえったが、孔生が傍に死んでいるのを見て大声をあげて泣いた。
「お兄さんは私のために死んじゃった、私は生きてはいられない」
 そこへ松娘が出てきて、二人で孔生の死骸を舁《かつ》いで帰った。そして嬌娜は松娘に孔生の首を持ちあげさし、公子には簪《かんざし》で歯の間を開けさして、自分では頤《あご》を撮《つま》んで、舌でかの紅い丸を移し、またその口に口をやって息を吹きかけた。それがために紅い丸は気に随《したご》うて喉に入り、かくかくという響をさした。そして暫くすると孔生は生きかえったが、一族の者が前に集まっているのを見て夢の寤《さ》めたような気になった。
 そこで一門が一室に集まって喜んだ。孔生は皆を塚穴の中に久しくいさしてはいけないと思ったので、皆で自分の故郷へ往こうと言った。皆がそれに賛同したが、ただ嬌娜のみ
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