は沈んでいた。孔生はその意味がわかったので、呉郎といっしょに往ってくれと言った。その他にも爺さんと媼《ばあ》さんが小さな小児を手離すのを承知しないかもわからないというようなことを言う者もあって、終日その相談がまとまらなかった。
 と、みると呉の家の小さな奴《げなん》が汗を流し息を切らして走ってきた。皆が驚いてその理《わけ》を聞いた。それは呉郎の家もまた同じ日に劫に遇うて、一門の者が倶に斃《たお》れたという知らせであった。嬌娜は足ずりして悲しんでとめどもなしに涙を流した。皆嬌娜に同情して嬌娜を慰めた。それと共に同帰の計も定まった。孔生は城内へ往って二三日|後《あと》の始末をして、それから急いで旅装を調《ととの》えて出発した。
 そして家に帰りつくと孔生は閑静な庭園に公子兄妹を置いていつも訪問した。公子は孔生や松娘などが往くとはじめて扉を開けた。孔生は公子兄妹と酒を酌み棋《き》をたたかわして一家の人のようにして楽しんだ。
 小宦は大きくなると容貌に品があって美しかった。その小宦は狐のような心を持っていて遠く出て都市に遊んだ。人々は皆それが狐の児であるということを知っていた。



底本:「中国の怪談(二)」河出文庫、河出書房新社
   1987(昭和62)年8月4日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
   1970(昭和45)年発行
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2004年11月3日作成
青空文庫作成ファイル:
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