いまし」
 崔は僕を残しておいて年とった婢に導かれて家の中へ入った。広い清らかな室《へや》があって酒や肴がかまえてあった。室の隅には四十前後の貴婦人が腰をかけていた。貴婦人は崔を見ると起《た》ってきた。
「よくいらしてくださいました」
 貴婦人は崔に向ってしとやかに礼をした。崔もうやうやしく礼を返した。
「外甥女《めい》が御厄介になりまして、ありがとうございます、何もありませんが、お一つ差しあげとうございます、さあ、どうぞ」
 貴婦人は崔を席に著《つ》かした。若い婢が十人位来て崔に酒を勧めた。崔は豪傑の性《たち》であった。彼は勧められるままに飲んで陶然として酔うた。
 貴婦人は崔と向き合ってお愛想に盃を持っていた。貴婦人の白い頬も赤味を帯びていた。貴婦人と崔との間は親しくなっていた。
「さっき御厄介をかけた外甥女を、貴君《あなた》の奥さんに差しあげたいと思いますが、如何でございましょう」
 崔はほがらかな気もちになっていた。
「そうですな、いただきましょう」
 貴婦人は年とった婢に言いつけてかの女を呼びにやった。崔は微笑しながらまた数杯の酒を飲んだ。
 女が綺麗に着飾って恥しそうな顔を
前へ 次へ
全7ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング