た。
「とんだ御厄介をかけまして、ありがとうございます、すぐ傍でございますから、ちょっとお立ち寄りを願います」
崔は女に眼を引かれていた。崔はそのまま帰りたくはなかった。一行は前へ往った。林のはずれがきた。年とった青い着物を着た婢が一人立っていた。年とった婢は崔の傍へ来た。
「お嬢様が御厄介をかけまして、なんともお礼の申しようもございません、今晩お酒宴《さかもり》をしておりますうちに、興にまかせて、お歩きになったために、こんなことになりました、お陰様でお怪我もせずにすみました、奥様がどんなにお喜びになるか判りません、お立ち寄りを願います」
十丁あまりも往くとまた林がきた。林の入口に別荘風の家が見えて、そのまわりに桃と李《すもも》の花が一面に咲いていた。暖かな風が吹いて花の香を送ってきた。
門口にもまた五六人の婢が立っていた。婢の群は若い女を馬からおろして入って往った。崔も馬からおりて僕《げなん》といっしょにそれぞれ自個《じぶん》の乗っていた馬を傍の花の木に繋いだ。林のはずれに立っていた婢が若い二三人の婢といっしょに引返してきた。
「奥様が大変な喜びでございます、どうかお入りくださ
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