おけまい、お前の馬へ乗せて送ってやろうじゃないか」
 僕は馬から降りて馬の轡《くつわ》を取り、女の傍へ引返して往った。
「御主人がお送りいたせと申します、お乗りください、お送りいたしましょう」
 女は顔へやっていた袖をとって僕を見て微笑した。僕は女を軽がると抱きあげて馬へ乗せた。
「お宅は何方様でございます」
 女は黙ってむこうの方へ白い指をさした。僕は女の指の方へ馬を曳いて進んだ。崔もその後から馬を歩かせた。
 林の中は月の光がさしたように明るくなった。女は振り返って崔の方を見た。それは綺麗な紅い唇をした少女であった。女は笑った。崔も笑顔をしてそれを迎えた。
 すこし歩いているとむこうの方で女の声がした。二三人の青い着物を着た婢《じょちゅう》が来ていた。
「どんなにおさがししたか判りません」
 一人の婢は進んできて女を見た後に、その眼を僕へやった。
「どうもありがとうございました、御厄介をかけて相すみません」
「お嬢さんが、お困りになってらっしゃるのを、私の主人が見まして、お送り申せと申しますので、お送りいたしました、あの馬に乗ってるのが、私の御主人でございます」
 婢は崔の傍へ往っ
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