して入ってきて貴婦人の傍へ腰をかけた。貴婦人は外甥女の肩に手をかけた。
「お前は今日から、この方の奥さんにしていただくことになりましたから、よく気をつけて、嫌われないようにしなくてはなりません」

 崔は女と夫婦になって夢のような燕楽《えんらく》の日を送った。崔が酒に飽いて窓に凭《よ》って立っていると、貴婦人がきた。
「賭をしようじゃありませんか」
 二人は双六《すごろく》の盤に向った。
「何を賭にいたしましょう」
 崔は長安で買った紅箱を六つ七つ持っていた。崔は言った。
「私は紅箱があります」
 貴婦人は言った。
「私は玉の指環があります」
 二人は双六の骰子《さい》を手にした。
「私が勝ちました」
 崔の紅箱の一つはまず貴婦人の手に渡った。崔の双六は拙《まず》かった。
「また私が勝ちました」
 今度はやっと崔の勝になった。
「やっと勝ちました、指環をいただきましょうか」
 崔は笑いながら貴婦人の手から指環をもらった。
「ではまた、紅箱を戴きましょうか」
 貴婦人は笑って手を出した。

 崔と女と貴婦人の三人が酒を飲んでいた。と、何処かで幽《かすか》な物の音がしはじめた。女も貴婦人も
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