媼にいった。
「士は己を知る者のために死す。色のためじゃないのです。どうも連城さんは、ほんとうに私を知ってくれないです。ほんとうに私を知っててくれるなら、結婚しなくてもかまわないです。」
媼はそこで連城にかわって、たしかに喬を思っているということをいった。喬はいった。
「ほんとにそうなら、今度逢った時、笑ってもらいたいです。そうしてくれるなら僕は死んでも憾《うら》みがないのです。」
媼は帰っていった。それから数日してのことであった。たまたま喬が外出していると、連城が叔《おじ》の家へいっていて帰って来るのにいき遇った。喬はそこで連城の顔をきっと見た。連城はながし目をして振りかえりながら白い歯を見せて嫣然《にっ》とした。喬はひどく喜んでいった。
「連城はほんとに自分を知ってくれている。」
ある時孝廉の家へ王が来て結婚の期日のことを相談した。連城はその時から前の病気が再発して、二、三ヵ月して死んでしまった。喬は孝廉の家へいって、連城を弔《とむら》ってひどく悲しむと共にそのまま息が絶えてしまった。孝廉はそれを舁《かつ》がして喬の家へ送りとどけさした。
喬は自分でもう死んだことを知ったが
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