湯あみをし頭髪を結って母を見た。見る者がその顔をじっと見詰めて驚いた。
蓮香は燕児の不思議を聞いて、桑に勧めて媒《なこうど》をたのんで結婚させようとしたが、桑は貧富の懸隔《けんかく》が甚しいのですぐ蓮香の言葉に従うことができなかった。ちょうどその時、燕児の母の誕生日になった。桑はその小児の婿の往くに従《つ》いて往ってお祝いをした。母親は来客の中に桑の名あるを見てためしに燕児に言いつけて簾の間から窺いていて桑を見わけさした。
桑は最後に往った。燕児はにわかに走り出て桑の袂をつかまえていっしょに帰ろうと言いだした。母親が叱ったのではじめてはじて入って往った。桑はその女をつくづく見るに婉然たる李であったから覚えず涙を流した。そこで母親の前に這いつくばってしまった。母親は桑を扶け起して侮らなかった。
母親は自分の兄弟に媒を頼んで、吉《よ》い日を選んで桑を入婿にしようとした。桑は家へ帰って蓮香に知らして燕児と結婚することについて相談した。蓮香はかなしそうな顔をして聞いていたが、やや暫くして別れて帰ると言いだした。桑は駭いて理由を訊いた。桑は涙を流していた。蓮香は言った。
「あなたが、入婿に
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