のつくり」、第3水準1−92−18]をはじめ烏老の不義を憎んでいる者は、いい気味だと思っていると、三日目になって甦《いきかえ》った。人がその故《わけ》を聞くと、烏老はこんなことを言った。
「わしが死んだ後に、家内の者が仏事をやって、しこたま紙銭《しせん》を焚いたので、冥府《じごく》の役人が感心して、それで送り還してくれたのだよ」
 ※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]は烏老のいうことを聞いて、馬鹿馬鹿しくもあったが、正直な男だけに、楮幣《ちょへい》を焚いたがために貪欲漢を甦らしたということがぐっと癪に触った。彼は腹の立つのをじっと耐《こら》えて嘲笑を浮べて言った。
「貪官汚吏は、賄賂を取って法を曲げるので、金のある者は罪を逃れ、貧しい者は罪になる、これはこの世ばかりと思っていたのに、冥府はこれよりもえらいと見える」
 そこで※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]は詩を作った。
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一陌《いっぱく》の金銭|便《すなわ》ち魂を返す
公私随所に門を通ずべし
鬼神徳の生路を開くあり
日月光の覆盆を照すなし
貧者何に縁《よ》ってか仏力を蒙《こうむ》ら
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