詞を用いた。
「よし、それでは供をさせよう」
吏員の一人は紙筆を操《と》って※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]の前へ置いた。
「これに事実を書くがよいだろう」
※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]は事実を書こうにも犯した罪がないから書きようがない。
「私は、犯した罪がありませんから、書くことがありません」
王の声が頭の上へ落ちかかるように聞えた。
「その方は罪がないというが、あの一陌の金銭便ち魂を返す、公私随所に門を通ずべしは、何人の句だ」
※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]ははじめて地府を嘲った詩によって罪を得たことを知った。彼は筆を執った。
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伏《ふ》して以《おも》う、混淪《こんりん》の二気、初めて天地の形を分つや、高下三歳、鬼神の数を列せず。中古より降って始めて多端を肇《はじ》む。幣帛《へいはく》を焚いて以て神に通じ、経文を誦して以て仏に諂《へつら》う。是に於て名山大沢|咸《ことごと》く霊あり。古廟叢祠|亦《また》主者多し。蓋《けだ》し以《おも》ふ[#「ふ」はママ]に、群生昏※[#「執/土」、第4水準2−5−9]《ぐんせいこんてん》、衆類冥頑《しゅうるいめいがん》、或は悪を長じて以て悛《あらた》めず、或は凶を行うて自ら恣《ほしいまま》にす。強を以て弱を凌ぎ、富を恃《たの》み貧を欺く、上は君親に孝ならず。下は宗党に睦しからず。財を貪り義に悖《もと》り、利を見て恩を忘る。天門高くして九重知ることなく、地府深くして十殿是れ列れり。※[#「坐+りっとう」、第3水準1−14−62]焼舂磨《ざしょうしょうま》の獄を立て、輪廻報応《りんえほうおう》の科を具《そな》う。善をなす者をして勧んで益《ますます》勤め、悪をなす者をして懲りて戒めを知らしむ。法の至密、道の至公《しこう》と謂うべし。然して威令の行わるる所、既に前に瞻《み》て後に仰ぎ、聡明の及ぶ所、反って小を察して大を遺《わす》る。貧者は獄に入りて殃《わざわい》を受け、富者は経を転じて罪を免る、惟《これ》傷弓《しょうきゅう》の鳥を取り、毎《つね》に呑舟《どんしゅう》の魚を漏す。賞罰の条、宜しく是の如くなるべからず。※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]の如き者に至りては、三生の賤士、一介の窮儒、左枝右梧《さしうご》するも、未だ児啼女哭《
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