蒲留仙 仙人といえば、お前さん方は、珍らしい話を聞いてやしないかね。何か面白そうな話があるなら聞かしてもらいたいが。
旅人乙 面白いはなし、そうでございますね。
蒲留仙 どんな話でもいいよ。狐の話でも、蛇の話でも、狼が女になって人間と夫婦になったというような話でも、悪人の話でも、鬼《ゆうれい》に逢った話でも、なんでもいいよ、わしは毎日、ここにこうしていて、旅の方に、いろいろの話をしてもらっているよ。
旅人甲 それは面白い趣向でございますね。べつにこれという面白い話もございませんが……、そうですな、私が家を出るすこし前に、こんな話を聞きましたが。唐《とう》といいまして、人の噂では、匪徒《ひと》の仲間入りをしているという男ですが、その男が二更《にこう》のころに、酒に酔って歩いておりますと、その晩は月があって、紅い着物を着た女が路のはたに蹲《しゃが》んでおるから、からかってみるつもりになったでしょうね。そっと背後から行って、くすぐると、女が顔をこっちに向けたが、どうでしょう、その顔は、目も鼻もない、つるりっとした白い肉のかたまりじゃありませんか。さすがの男も、きゃッといったきりで、そのままそ
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