った。
旅人甲 労山《ろうざん》からまいりました。
蒲留仙 ほう、労山から来なすったか、それはくたびれたろう。それにこの二、三日は暑いから……。
旅人甲 しかし、山の中はたいへんに涼しゅうございますね、路路いい水はありますし。
蒲留仙 水はいいよ、水のいいのは、山の中にいる者の一徳だ。この茶は、あの谷から湧く水だよ。
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蒲留仙は振りかえって後の人家の屋根越しに見える丘に煙管をさす。
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旅人甲 そうでございますか。
旅人乙 だからお茶でも味がちがいます。
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旅人甲は碗を持ったなりに、旅人乙は煙管を口から離して、ちょっと体を前屈みにし、涼亭の軒越しに眼をやる。
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旅人乙 なるほど、石があって、木があって、仙人のいるような山でございますね。
旅人甲 なるほどそうじゃ。
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蒲留仙は体の位置をなおして、旅人乙の顔を見る。
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