うな音をして東へ飛んだ年にも、ここにおったというじゃありませんか。蝗《いなご》が雲のようにこの村へやって来た時にも、先生はここにおりましたな。久しいもんじゃ、辛抱がええ。張公の媽媽の気違いも、先生の足許にゃ寄れないぞ。
蒲留仙 うむ……、うむ……、張公の媽媽か。
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蒲留仙は雁首《がんくび》の大きな煙管に淡巴菰を詰めかえながら相手にならないので、村の男は歩きだした。
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村の男 やれ、やれ、御苦労なことじゃ。茶と淡巴菰の接待をして、蛇の色女に嘗められるような話を聞こうというのじゃ。
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二人の旅人が下手《しもて》から来て、涼亭の口で村の男と擦《す》れ違って入って来る。その一人の甲は、菰《こも》で包んだ量《かさ》ばった四角な包《つつみ》を肩に乗せ、乙は小さな竹篭《たけかご》を右の手に持っている。蒲留仙の眼はその旅人へといく。
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蒲留仙 ああ、旅の方だね、暑かったろうね。休んでいったらいいだろう、茶も淡巴菰もあるか
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