ようになっている。その涼亭の一方は山田で、稲や黍を作り、一方は人家になって十軒ばかりの泥土の小家が並んでいて、前には谷川の水の流れている小溝があり、後には屋根越しに緑葉の間から所どころ石の現われている丘が見えている。それは康熙年間の某《ある》夏の午後のことである。涼亭には蒲留仙《ほりゅうせん》が腰をかけて、長い煙管《キセル》をくわえながらうっとりとして何か考えている。その蒲留仙の右側の石台の上には、壷のような器に小柄杓を添えて、その下に二つ三つの碗を置き、それと並べて古い皮の袋と煙管を置いてあるが、その壷には茶が入れてあり、皮袋には淡巴菰《タバコ》を詰めてある。そして左側には硯に筆を添え、それと並べて反古《ほご》のような紙の巻いたのを置いてある。また足許《あしもと》には焼火したらしい枯枝の燃えさしがあって、糸のような煙が立っている。蒲留仙はこうして旅人を待っていて、茶を勧め、淡巴菰を喫《の》まして、牛鬼蛇神《ぎゅうきじゃしん》の珍らしい話をさせ、それを「聊斎志異《りょうさいしい》」の材料にしているところである。

そこへ村の男が一人|上手《かみて》から来て涼亭の中へ入って来る。竹で編ん
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