、家相と方位を見ることを、すこし習ったばかりだよ」
滄客は喜んで、そこで家相を見てくれと言った。海石は中へ入って残らず家の内外を観まわったが、そのあとで家族の者を見たいと言いだした。滄客は海石の言うとおり、児、※[#「女+息」、第4水準2−5−70]、婢、妾、家族全体を座敷へ集めて、それに一いち指をさして教えた。滄客の指が妾の倪に往ったところで、海石は仰向いて大声に笑いだしたが暫くその笑声がやまなかった。一座の者は何事だろうと思って不思議がった。と見ると、倪がわなわなと慄えだして顔の色がなくなったが、にわかにその体が縮《すく》んで、二尺あまりになってしまった。海石は文鎮を持ってその首を撃った。その音が缶を打つ音のようであった。海石はそこでその髪をひっつかんで、後脳のところを検べた。三四本の白髪が其処にあった。海石はそれを抜こうとした。女は頸を縮めて啼いて、
「此処を出て往きますから、どうか抜かないでください」
と言った。海石は怒って、
「汝《きさま》はまだ悪い心がうせないのか」
と言って、その白髪を抜いた。白髪を抜くと同時に女は毛の黒い貍のような獣になった。一座の者はひどく駭いた
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