があって、其処へ往って頼めば逢いたい亡者に逢えると云う者があった。小八はそれを聞くと彼方此方で工面して三両余りの金を拵えて来たところであった。小八は主翁に対して逢いたいのは女房だと云った。
「それは、御愁傷様でございます、お年は幾歳《いくつ》でございました」と、主翁が云った。
「二十五だった」
「お客さんのお媽《かみ》さんなら、定めて背のすっきりした、面長の好い容貌《きりょう》でございましたろう」
「なに」と、小八は苦笑いして、「……まあ、背だけは高かったよ、顔も長手なことは長手だったが、消火夫《しごとし》風情の嬶に、そんな好い女があるものか」
「どうして、江戸の女子は※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》でございますから」と、云って主翁は急に用を思い出したようにして、「命日は何日《いつ》でございます」
「先月の七日だ」
「それで亡者にお逢いになるには、なんすることになっております、これはあなた様ばかりでなく、他からも亡者に逢いに来なさる方は、皆いちようにそう云うことを定めております、今晩の回向料が二百匹、案内の男が四百文、それに宿銭が三百文、この他に後の回向をお頼みにな
前へ
次へ
全17ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング