い顔に赤い鬚を生《は》やしてあるのでもっとも獰悪《どうあく》に見えた。そのうえ夜になると両方の廊下から拷問の声が聞えるというので、十王殿に往く者は身の毛のよだつのがつねであった。それ故に同窓生は朱を困らせにかかったのであった。
しかし朱は困らなかった。彼は笑って起ちあがって、そのまま出て往ったが、間もなく門の外で大声がした。
「おうい、鬚先生を伴《つ》れてきたぞ」
同窓生は起ちあがった。そこへ朱が木像をおぶって入ってきて、それを几《つくえ》の上に置き、杯を執って三度さした。同窓生はそれを見ているうちに怖くなって体がすくんできた。
「おい、どうか元へ返してきてくれ」
朱はそこでまた酒を取って地に灌《そそ》いで、
「私はがさつ者ですから、どうかお許しください、家はつい其所《そこ》ですから、お気が向いた時があったら、飲みにいらしてください、どうか御遠慮なさらないように」
と言って、そこでまたその木像をおぶって往った。
翌日になって同窓の者は約束どおり朱を招いて飲んだ。朱は日暮れまでいて半酔になって帰ったが、物足りないので燈を明るくして独酌していた。と、不意に簾《すだれ》をまくって入
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