そこで許宣は鎮江へ送られることになったところへ、折よく杭州から邵大尉の命で李幕事が蘇州へ来た。李幕事は王主人の家へ往って許宣が配を改められたことを聞くと、鎮江の親類へ手簡を書いて、それを許宣に渡した。鎮江の親類とは、親子橋の下に薬舗を開いている李克用《りこくよう》という人の許であった。
 許宣は護送人といっしょに鎮江へ往って、李克用の家へ寄った。李克用は親類の手簡を見て、護送人に飯を喫《く》わし、それからいっしょに府庁へ往って、それぞれ金を使って手続をすまし、許宣を家へ伴れてきた。
 許宣は李克用の家へおちつくことができた。心がおちついてくるとともに彼は恐ろしい妖婦に纏わられている自分の不幸を思いだして、悲しみも憤りもした。李克用は許宣が杭州で薬舗の主管《ばんとう》をしていたことを知ったので、仕事をさしてみると、することがしっかりしていて、あぶなかしいと思うことがなかった。
 そこで主管にして使うことにしたが、他の店員に妬《ねた》まれてもいけないと思ったので、許宣に金をやって店の者を河の流れに臨んだ酒肆《さかや》へ呼ばした。
 やがて酒を飲み飯を喫って皆が帰って往ったので、許宣は後
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