た。家にいた王主人は、許宣が捕卒に引き立てられて入ってきたのを見てびっくりした。
「どうしたというのです」
「あの女にひどい目に逢わされたのです、今家におりましょうか」
 許宣は声を顫《ふる》わして怒った。
「奥様は、あなたの帰りが遅いと言って、婢さんと二人で、承天寺の方へ捜しに往ったのですよ」
 捕卒は白娘子の代りに王主人を縛って許宣といっしょに府庁へ伴れて往った。堂の上には府尹が捕卒の帰るのを待っていた。府尹は白娘子を捕えてきた後に裁判をくだすことにした。府尹の傍には周将仕がきてその将来《なりゆき》を見ていた。
 そこへ周将仕の家の者がやってきた。それは盗まれたと思っていた金銀珠玉衣服の類が、庫の空箱の中から出てきたという知らせであった。周将仕はあわただしく家へ帰って往ったが、家の者が言ったように盗まれたと思っていたものはみなあった。ただ扇子と墜児はなかったが、そんな品物は同じ品物が多いので、そればかりでは許宣を盗賊とすることができなかった。周将仕は再び府庁へ往ってそのことを言ったので、許宣は許されることになったが、許宣を置く地方が悪いということになって、鎮江の方へ配を改められた。
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