人は眼を瞠って呆れていた。
「つまらんことを言って、夫婦の間をさこうとするのは、けしからんじゃありませんか、私がこれから懲らしてあげる」
白娘子はそう言って口の裏で何か言って唱えた。と、かの道人は者があって彼を縄で縛るように見えたが、やがて足が地を離れて空にあがった。
「これでいい、これでいい」
そう言って白娘子が口から気を吐くと道人の体は地の上に落ちた。道人は起きあがるなりどこともなく逃げて往った。
四月八日の仏生日《たんじょうび》がきた。許宣が興が湧いたので、承天寺へ往って仏生会《ぶっしょうえ》を見ようと思って白娘子に話した。白娘子は新しい上衣と下衣を出してそれを着せ、金扇を持ってきた。その金扇には珊瑚の墜児《たま》が付いていた。
「早く往って、早く帰っていらっしゃい」
そこで許宣は承天寺へ往った。寺の境内には演劇《しばい》などもかかって賑わっていた。許宣は参詣人の人波の中にもまれて彼方此方していたが、そのうちに周将仕家《しゅうしょうしけ》の典庫《しちぐら》の中へ賊が入って、金銀珠玉衣服の類を盗まれたという噂がきれぎれに聞えてきたが、自分に関係のないことであるからべつに気
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