た。臥仏寺の境内はその日も参詣人で賑わっていた。かの道人の店頭にも一簇の人が立っていた。白娘子はその道人がかの道人だということを教えられると、そのまま走って往った。
「この妖道士、人をたぶらかすと承知しないよ」
 符水《ふすい》を参詣人の一人にやろうとしていた道人はびっくりして顔をあげた。そして、白娘子の顔をじっと見た。
「この妖怪《ばけもの》、わしは五雷天心正法《ごらいてんしんしょうほう》を知っておるぞ、わしのこの符水を飲んでみるか、正体がすぐ現われるが」
 白娘子は嘲るように笑った。
「ちょうどいい、ここに皆さんが見ていらっしゃる、私が怪しい者で、お前さんの符水がほんとうに利《き》いて、私の正体が現われるというなら飲みましょうよ、さあください、飲みますよ」
「よし飲め、飲んでみよ」
 道人は盃に入れた水を白娘子の前へ出した。白娘子はそれを一息に飲んで盃を返して笑った。
「さあ、そろそろ正体が現われるのでしょうよ」
 許宣をはじめ傍にいた者は、またたきもせずに白娘子の顔を見ていたが、依然としてすこしも変らなかった。
「さあ、妖道士、どこに怪しい証拠がある、どこが私が怪しいのだ」
 道
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