の傍に銀の包みを積みあげてあった。それは紛失していたかの四十九個の銀錠であった。
捕卒は銀錠を扛《と》って臨安府の堂上へ搬んできた。許宣はそこで盗賊の嫌疑は晴れたが、素性の判らない者から私《ひそか》に金をもらったというかどで、蘇州へ配流《ついほう》せられることになった。
一方邵大尉の方では、約束の通り懸賞金五十両を出してそれを李幕事に与えたが、李幕事は義弟に苦痛を見せることによって得た金であるから、心苦しくてたまらないので、牢屋の内にいる許宣に面会して、その金を旅費に与え、李将仕《りしょうし》と相談して、二つの手簡《てがみ》を持って往かすことにした。その手簡の一つは、蘇州の押司《おうし》の范院長《はんいんちょう》という者に与えたもので、一つは吉利橋下《きちりきょうか》に旅館をやっている王という者に与えたものであった。
その日になると許宣は二人の護送人に連れられて牢屋を出た。府庁の門口には李幕事夫婦をはじめ、李将仕などが来て待っていた。許宣は涙を滴《こぼ》してその人びとに別れの詞をかわして出発した。
三日ばかりして蘇州府へ着いた。李将仕の手簡を見た范院長と王主人は、金を使って奔走
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