がそこへ傘を持って出てきた。許宣はふらふらと起って傘を持って出た。


 許宣は夜になって姐の許へ帰って、結婚の相談をしようと思ったが、人生の一大事のことをせけんばなしのようにして話したくないので、その晩は何も言わずに寝て、翌朝起きるなりそれまで貯えてあった僅な銭を持って市場へ往き、※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]の肉や鵞《がちょう》の肉、魚、菓実《くだもの》、一樽の佳い酒まで買ってきて、それを自分の室へ並べて李幕事夫婦を呼びに往った。
「今朝は、私の処で御飯を喫《た》べてください」
 李幕事夫婦は不思議に思いながら許宣の室へ来たが、卓の上の御馳走を見るとまた驚いた。
「今日は、ぜんたいどうしたというのだ、へんじゃないか」
 李幕事は突っ立ったなりに言った。
「すこしお願いしたいことがありますからね、どうか、まあお掛けください」
 許宣はとりすまして言った。
「どんなことだ、さあ言ってみるがいい」
「まあ、二三杯あがってください、ゆっくりお話しますから」
 許宣は李幕事夫婦に酒を勧めた。酒は二|巡《まわり》三巡した。許宣はそこで李幕事の顔を見た。
「私は、これまで御厄介をかけ
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