みるとこうした富豪の婦人と結婚することは思いもよらなかった。彼はそれを考えていた。
「お厭でしょうか、あなたは」
許宣はもう黙っていられなかった。彼は吃るように言いだした。
「そんなことはありませんが、私は、家もない、何もない、姐の家に世話になって、それで、日間は親類の鋪へ出ているものですから」
「他に御事情がなければ、他に御事情があればなんですが、そんなことなら私の方でどうにでもいたしますから」
そう言って白娘子は顔をあげて婢を呼んだ。小婢がもうそこに来ていた。白娘子は何か小声で言いつけた。
小婢はそのまま室を出て往ったが、まもなく小さな包みを持ってきて白娘子に渡した。白娘子はそれをそのまま許宣の前へ置いた。
「これを費用にしてくださいまし、足りなければありますから、そうおっしゃってくださいまし」
それは五十両の銀貨であった。許宣は手を出さなかった。
「それをいただきましては」
「いいじゃありませんか、費用ですもの」
白娘子はそれを許宣の手に持っていった。許宣は受けて袖の中へ入れた。
「それでは、今日はもう遅いようですから、お帰りになって、またいらしてくださいまし」
小婢
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