いったが、何を飲んでいるか判らなかった。許宣はそうして自分の顔のほてりを感じた。
「さあ、どうぞ」
 許宣は白娘子の言うなりに盃を手にしていたが、ふと気が注くとひどく長座したように思いだした。
「何かお話が、……あまり長居をしましたから」
「お話ししたいことがありますわ、では、もう一杯いただいてくださいまし、それでないと申しあげにくうございますから」
 白娘子はそう言って許宣の眼に自分の眼を持ってきた。それは白いぬめぬめする輝きを持った眼であった。許宣はきまりがわるいので盃を持ってそれをまぎらした。同時に香気そのもののような女の体が来て、許宣の体によりかかった。
「神の前でお話しすることですから、決して冗談じゃありませんから、本気になって聞いてくださいまし、私は主人を没くして、独りでこうしておりますが、なにかにつけて不自由ですし、どうかしなくちゃならないと思っていたところで、あなたとお近づきになりました、私はあなたにお願いして、ここの主人になっていただきたいと思いますが」
 貧しい孤児の前に夢のような幸福が降って湧いた。許宣は喜びに体がふるえるようであったが、しかし、貧しい自分の身を顧
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