で、何か一二疋好い獣を獲りたかった。兎は彼の眼から放れなかった。彼はもしやそこらあたりに隠れていはしないかと思って、注意しいしい歩いた。
大塚は谷の窪地の隅になった処へまで往った。山畑はそこでなくなって、それから勾配のきつい登り坂になるのであった。兎はとてもいないと思ったので、銃を元の通り肩に懸けて二三歩往った。と、思うと、彼の身体は不意に脚下の穴の中へ陥ちて往った。水の少いその山畑を作る人の掘ったものであろう、二丈余りある深い山井戸であった。大塚は驚いて微暗い穴の中を見廻した。幸いにしてこぼれ土のために水のある処は埋まってしまって、僅かに草鞋の端が濡れる位の水しか湧いていなかった。
(古井戸へ陥ち込んだぞ、上へあがらねばならんが、あがれるかしら)
大塚は苔の生えた穴の周囲に注意したが、手掛りにするような処は見つからなかった。上の方はと見ると穴の入口にうっすらした陽の光があった。
(とても、彼処《あすこ》までは出て往けない、それに人家が遠いから、いくら大声を立てたところで、聞きつけてやって来る者もない、こいつは困ったことになった、腰にはまだ一回分の握飯は持っておるが、とてもそんなこ
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