か涙ぐましい顔をしていた。柳毅は磊落《らいらく》な、思ったことはなんでも口にするという豪快な質《たち》の男であった。
「貴女《あなた》のような美人が、どうしてそんなことをしているのです」
 女は淋しそうに笑った。
「私は、洞庭《どうてい》の竜王の女《むすめ》でございます。両親の命で、※[#「さんずい+徑のつくり」、第3水準1−86−75]川の次男に嫁《かた》づいておりましたが、夫が道楽者で、賤《いや》しい女に惑わされて、私を省《かえり》みてくれませんから、お父さんとお母さんに訴えますと、お父さんも、お母さんも、自分の小児《こども》の肩を持って、私を虐待して追いだしました、私はこのことを洞庭の方へ言ってやりたいと思いますが、路が遠いので困っております、貴郎《あなた》は呉にお帰りのようでございますが、どうか手紙を洞庭まで届けて戴けますまいか」
 女はすすり泣きをした。
「僕も男だ、君のそういうことを聞くと、どうにでもしてあげたいが、僕は人間だから、洞庭湖の中へは行けないだろう」
「洞庭の南に大きな橘の木がございます、土地の者はそれを社橘《しゃきつ》と言います、その木のある所へ行って、帯を解
前へ 次へ
全11ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング