代のお父さんが来ておる、後のことは、皆で、好いようにする、小供も俺とお父さんとで引受けて世話をするから、心配はいらない」
「はい、それではもう往きます」
「どうぞ心配を残さないようにしてくれ」
 父親も泣き声になって云った。
「芳三さん、何も心配することはないよ、藤代と小供は、わしと伯父さんとでお世話をします」
 外ではもう返事をしなかった。
「もう帰ったと見える、やっぱり気にかかる物があると、浮ばれないと見える」
「そうでございますとも」
 二人は泣き声になって話しながら家に入った。

 酒屋ではその翌日五十両の金を持って往って埋めたが、それは悪漢に奪われる恐れがあるので隠していた。しかし、その噂はすぐその町に拡がった。気の弱い者は夜になると酒屋の附近から芳三を葬ってある寺の墓地附近を往来《ゆきき》しなかった。
 その時分のことであった。隣村へ商売に往っていた小商人《こあきんど》の一人が夜遅くなって帰っていた。ちょうど六日比の月が入りかけている時で途は明るかった。町外れの五六本の木の生えた小社の前まで来ると、すぐ路傍に沿うて馬方などが時どき馬を繋いでいる木の根本の暗い処に白い物がちら
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