ます」
 伯父にはあたりがつかなかった。
「私とは、何人だ」
「私の声が判りませんか」
 伯父さんはやっぱり判らなかった。
「判らないね、何人《だれ》だ」
「私は芳三でございます」
 伯父さんは体がぞくぞくした。芳三とは新仏の名であった。
「…………」
「あなたは何人でございますか」
「わしは、伯父の林蔵じゃ」
 伯父さんの声は顫えた。
「伯父さんでございますか、伯父さんなら頼みたいことがあります」
「なんじゃ、どんな頼みじゃ、云うが好い、お前の云うとおりにしてやる」
「伯父さん、私は、己《じぶん》の物が皆欲しゅうて、それで出て来ました、衣服《きもの》も、道具も、私の使っていた物は、皆墓へ持って来て埋めてもらいとうございます、そうして貰わないと私は心が残って、浮ばれません」
 伯父さんはなるほど仏の云うことが尤もだと思った。
「よし、明日、夜が明け次第、皆持って往って埋めてやる、安心するが好い、それから家のことも心配せんが好い、皆で世話して好いようにしてやる」
「それではお願いします、そうして貰えないと、私は浮ばれません」
「好いとも、夜が明け次第、持って往って埋めてやる」
「それでは
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