往くことが恐ろしくてしかたがない、で泊ってくれている伯父さんに往って貰おうと思った。
「……伯父さん、……伯父さん」
隣の室で、微かに聞えていた鼾がぱったりとやんだが返事はない。
「……伯父さん、……伯父さん」
「わしを呼んだのか」
「すみませんが、何人《だれ》か人が来て、裏門を叩いているようでございます。起きてくださいませんか」
「そうか、往って来よう、何だろう」
戸を叩く音がまたとんとんと聞えて来た。伯父さんはそれをはっきりと聞いた。
「なるほど、叩くな、何人だろう」
伯父さんはやっとこさ起きあがって、暗い中をさぐりさぐり庖厨《かって》の方へ往って土間へおり、足でさなずって下駄と草履をかたかたに履いて、其処の戸を放して裏口へ出た。暗い空には寒そうに星が光って四辺《あたり》がしんとしていた。
「何人だね、なんか用かね」
すぐ眼の前にある裏門の戸がまたとんとん鳴った。伯父さんはその方へ歩いて往った。しかし、時どき強盗などの噂があって油断の出来ない時であるから、よく声をたしかめなければ開けられないと思っていた。
「何人だね」
微な風に顫えてるような声が聞えて来た。
「私でござい
前へ
次へ
全11ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング