問《きゅうもん》に耐えかねて縊死《いし》した。
青年と駈け落ちした彼女は、夜になると住職の怨霊《おんりょう》に悩まされた。それと見た画家は女の金を奪って姿を晦《くら》ましてしまった。
彼女は旅館で自殺を計ったが、果さなかった。そして、彼女は其の事を知って駈けつけた弟の家へ引き取られて、それから尼になったものであった。
「私は幾度《いくたび》、自殺を計ったか知れませんが、罪が深いと見えまして、どうしても死ねないのでございます」
名音は其の事を住職に話して玉音のために祈祷《きとう》してやったが、玉音の苦しみは去らなかった。そして、一ヶ月ばかりの後に発狂してしまった。名音はそれを私に話した後でこう云った。
「其の後、玉音さんは、弟の家へまた引き取られたそうですが、恐らく彼《あ》の病気は癒らないでしょう。こうしておりましても、玉音さんの彼《あ》の苦しそうな声と、無鬼魅《ぶきみ》な法華僧の姿が眼の前に浮んで来ますよ」[#地付き](玉谷高一氏談)
底本:「怪奇・伝奇時代小説選集3 新怪談集」春陽文庫、春陽堂書店
1999(平成11)年12月20日第1刷発行
底本の親本:「新怪談集
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