法衣
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)壮《わか》い男
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千住か熊谷かのことであるが、其処に某《ある》尼寺があって、その住職の尼僧と親しい壮《わか》い男が何時も寺へ遊びに来ていたが、それがふっつりと来なくなった。
尼僧はそれを心配して、何人《だれ》かその辺の者が来たならその容子を聞いてみようと思っていると、ある日その男がひょっこりやって来た。
「どうしたかと思って、心配してたのですよ」
「少し病気でしてね」
「もう好いのですか」
「ああ、もう癒りました」壮い男はその後で、「今日は一つお願いがあって来ましたよ」と云った。
「なんですか」
「法衣《ころも》を貸してくれませんか」
「貸してあげましょうが、それをどうするのです」
「少し入用です」
で、尼僧は奥から一枚の法衣を持って来て、壮い男の前に置いた。壮い男は嬉しそうにそれを持って帰って往った。
そして、暫くして、何かの用事で尼僧が寺の玄関へ往ってみると、壮い男に貸したはずの法衣が置いてあった。玄関口を出て往く時に、壮い男がたしかに持って出たことを知っている尼僧は、不審でたまらなかっ
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