そうでございますなあ」
「かまわん、かまわん、一服しよう」
 生垣のある寺の門がすぐ見えた。監物はその門へ足を向けた。臣《けらい》の一人は前打《さきうち》に監物より前《さき》へ入って往った。やがてその臣と左の足に故障のある窶々《よぼよぼ》した住職が出て来た時には、監物たちは本堂の前に立って内陣に点《とも》った二三本の蝋燭の光に、大小の仏像の薄すらと浮いているのを眺めていた。
「ようこそお立寄りくださいました。さあ、どうぞ此方へ」
 住職は小腰を屈めながら客殿の方へ隻手《かたて》をさした。その眼には血みどろになった獣の屍が映っていた。
 客殿は本堂の前を右の方へ折れ曲ったその横手の処にあった。監物が前《さき》に粗末な客殿の竹の簀子を敷いた縁側へ往った。監物は銃を背からおろして、それを簀子の上に投《ほう》り出すように置きながら鷹揚に腰をかけた。
「やれ、やれ、みな疲労《くたび》れたろう」
 鹿を初め獲物の兎や雉などは、庭前《にわさき》の黄色くなりかけた芝草の上に置かれた。
 其処へ柿色の腰衣を着けた納所坊主が、茶の盆を持って縁側の曲角から来た。その茶は監物の前に出された。監物は隻手にその茶
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