いっしょに遊ぶって云ったよ」
「そんなことを何人《だれ》が云うた」
「先刻《さっき》、此処で遊んでた小供が云ったよ」
「そうか、そうかも判らん、良《え》え子には、そうしてお姿を拝ましてくだされるかも判らん、さあ、帰《い》のう」
「あい」
 源吉が歩きだしたので為作もそのまま踉いて歩いた。為作は孫が可愛くてしかたがなかった。為作の悴も大工であったが、藩の江戸屋敷の改築のときに江戸へ出た悴は、江戸で腕を磨くことにして、改築が終っても帰らずにそのままずっと江戸にいるうちに、吉原で深くなった女と世帯を持ち、続いて小供も出来たと云うので、江戸へ孫を見に往こう往こうと思っていたところで、昨年の暮になって風邪が元で亡くなり、その新らしい霊牌《いはい》を持って、未見の嫁と孫がまだ深かった北国の雪を踏んで尋ねて来た。数年前に老妻を失っても悴があるので何とも思わなかった為作は、非常に力を落したものの、やがて嫁と孫の気もちが判って来ると、それに慰められるようになっていた。
「お祖父さん、お諏訪様は、どうしたら、出て来てくれるの」
 二人は草原を出て麦畑の間を歩いていた。
「毎日、拝みに往って、頼んでおるなら
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